こころ 先生と遺書 夏目漱石 つづき
奥さんとお嬢さんのことが よくわからないわけですね。自分のことを 受け入れているのか そうじゃないのかとか。
ー私は奥さんの態度をどっちかに片づけてもらいたかったのです
(わかりますねえ)
なんでそんな妙な事をするのか、その意味がのみこめなかったのです
理由を考え出そうとしても、考え出せない私は、罪を女という一字になすりつけて我慢したこともありました。畢竟女だからああなのだ、女というものはどうせ愚なものだ。私の考えは行き詰まればいつでもここへ落ちてきました。
それほど女をみくびっていた私が、またどうしてもお嬢さんをみくびることができなかったのです。私の理窟はその人の前にまったく用をなさないほど動きませんでした。私はその人に対して、ほとんど信仰に近い愛をもっていたのです。
本当の愛は宗教心とそう違ったものでないということを堅く信じているのです。