NEKO美術館 成瀬憲子

1985　３６さい

日記

するめ　やめられないな

親しくなった　奥さんが　もってきてくれた　ほらちょっと茶色っぽい　かたいの

現在　３歳のはなたれこぞう相手に　なにひとつ　まとまったことができない私

このするめを　ひじついて　うつろな眼つきで　しがんでる

「おたく　するめ好き？」

「好きやねん」

するめというのは　おかきのようにばりばりと　口の中にはいってしまわない

だから　おかきは　よけいに　いらいらする

いや　このおかきのばりばりが　発散させてくれるのかも

するめは　口の中で　ひとそれぞれに　くちゃくちゃやれるから　うつろな目と

異様だけど　あってる

知人「あんたそれで　あやうく　１８万円のふとんを　買ってしまいそうになったんやな」

私「そう　あぶなかった」

「わかるわかる　それで　どうなったん？」

「あわてたわよ　ことわるのにも　連休にはいるし」

「うんうん　そういうしくみになってるんやな」

「こういうときに　あんたなら　だれに電話する？」

「そやなあ　警察　消費者センターとか」

「私は　義姉さん　かん　かんよね　あの人ならなんとかしてくれるって」

「ご主人は？」

「あんたやったら　ご主人に電話するの？」

「ん　ま　しないかも」

「あの　おねえさん　あのね　ふとん　おねしょぶとんととりかえてくれるっていうから

ぜーんぶ出して　これでどーっていったらね　１８万円っていうのよ」

姉「買ってしまったの？　あかんわ　のりこさん　すぐことわり」

「電話しても　やすみとかいって　でてこないのよ　だって連休だから」

姉「あんな　一週間以内やったらとりけせるねん　葉書をだし　今日の消印があったら

いけるから」

＊

この日記は　それが健康布団のときだったのか　そのおねしょ布団交換のときだったのか

子育ての時期は　いつも家にいますから　こんなこともあったわけですね

こどもらが　まいにちおねしょをしてくれると　ふとんをほしながら　こんな道にまぎれこんだりするんでしょうか

おれおれ詐欺だって　いつひっかかるかわかりませんよね

このまえも　息子がそのことで　心配して　電話してきましたよ

「どこに住む息子ですか」とか私はいいながら　地球は大丈夫？

そうそう　するめの話から　はじまったんでしたよね

１９８５年　そんなするめを　くちゃくちゃやっていたわけですけど

今は　２０１９年　おぼつかない歯　するめなんてやばいですよね