「こころ」 夏目漱石 先生と私 つづき
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「私にはわかりません」
奥さんは予期のはずれた時に見る哀れな表情をそのとっさに現わした。私はすぐ私の言葉をつぎ足した。
「しかし先生が奥さんをきらってらっしゃらないことだけは保証します。私は先生自身の口から聞いたとおりを奥さんに伝えるだけです。先生は嘘をつかないかたでしょう」
奥さんはなんとも答えなかった。しばらくしてからこう言った。
「じつは私はすこし思いあたることがあるんですけれども....」
「先生がああいうふうになった原因についてですか」
「ええ。もしそれが原因だとすれば、私の責任だけはなくなるんだから、それだけでも私たいへん楽になれるんですが....」
「どんなことですか」
奥さんは言いしぶって膝の上に置いた自分の手をながめていた。
「あなた判断してくだすって。言うから」
「私にできる判断ならやります」
「みんなは言えないのよ。みんな言うとしかられるから。しかられないところだけよ」
私は緊張して唾液をのみ込んだ。
*
いやあ 奥さんはなにをいうんでしょう
朝ドラでも いいところで つづきとなるでしょう