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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき

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 その後私は奥さんの顔を見るたびに気になった。先生は奥さんに対してもしじゅうこういう態度に出るのだろうか。もしそうだとすれば、奥さんはそれで満足なんだろうか。
 奥さんの様子は満足とも不満足ともきめようがなかった。私はそれほど近く奥さんに
接触する機会がなかったから。それから奥さんは私に会うたびに尋常であったから。最後に先生のいる席でなければ私と奥さんはめったに顔を合わせなかったから。
 私の疑惑はまだそのうえにもあった。先生の人間に対するこの覚悟はどこからくるのだろうか。ただ冷たい目で自分を内省したり現代を観察したりした結果なのだろうか。先生は座って考える質の人であった。先生の頭さえあれば、こういう態度はすわって世の中を考えていても自然と出て来るものだろうか。私にはそうばかりとは思えなかった。先生の覚悟は生きた覚悟らしかった。火に焼けて冷却しきった石造家屋の輪郭とは違っていた。私の目に映ずる先生はたしかに思想家であった。けれども思想家のまとめあげた主義の裏には、強い事実が織り込まれているらしかった。自分と切り離された他人の事実でなくって、自分自身が痛切にに味わった事実、血が熱くなったり脈が止まったりするほどの事実が、畳み込まれているらしかった。


先生のこころを読むー その読み方が こちらに こういうふうにして 相手のことを
理解するのかと つづきます
「先生はたしかに思想家であった。けれども思想家のまとめあげた主義の裏には、強い事実が織り込まれているらしかった」
織り込まれている事実、「血が熱くなったり脈が止まったりするほどの事実が、畳み込まれているらしかった」

事実というのは サッと通り過ぎるものもあるだろうけれども 畳み込まれたような事実というのは 複雑そうで 読者を惹きますね(この日本語あってるかなあ)
《 2019.01.23 Wed  _  読書の時間 》