かもめ 太宰治 つづき
「あなたは、どうです。書けますか?」
「僕は、だめです。まるっきり、だめです。下手くそなんですね。恋愛を物語りながら、つい演説口調になったりなんかして、ひとりで呆れて笑ってしまうことがあります」
「そんなことは無いだろう。あなたは、これまで、若いジェレネーションのトップを切っていたのでしょう?」
「冗談じゃない。このごろは、まるで、ファウストですよ。あの老紳士の書斎での呟きが、よくわかるようになりました。ひどく、ふけっちゃったんですね。ナポレオンが三十すぎたらもう、わが余生は、などと言っていたそうですが、あれが判って、可笑しくて仕様が無い」
「余生ということを、あなた自身に感じるのですか?」
「僕は、ナポレオンじゃ無いし、そんな、まさか、そんな、まるで違うのですが、でも、ふっと余生を感じる事がありますね。僕は、まさか、ファウスト博士みたいに、まさか、万巻の書を読んだわけでは無いんですが、でも、あれに似た虚無を、ふっと感じる事があるんですね」ひどくしどろもどろになって来た。
「そんなことじゃ、仕様が無いんじゃないですか。あなたは、失礼ですけど、おいくつですか」
***
ふっと余生を感じる事がありますね
ファウスト博士 あれに似た虚無
「かもめ」を読んでいて 今頃気付くんですが これは誰かに(自分に)語りかけているようですね。
そうか 「独白」とか書いてありましたよね。こういう文体なんだ
それでも 他人のことも意識しているね
そこで また気付くんです
作家は 本の中に 幾人もの人を 登場させているけれども 一人で それを動かしてるんやん 人形つかいか?
自分の日記はどー?