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かもめ

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かもめ 太宰治

つづき

私には、何もできぬのだ。私には、何一つ毅然たる言葉が無いのだ。祖国愛の、
おくめんも無き宣言が、なぜだか、私には、できぬのだ。こっそり戦線の友人たちに、
卑屈な手紙を書いているだけなのである。(私は、いま何もかも正直に言ってしまおうと
思っている)私の慰問の手紙は、実に、下手くそなのである。嘘ばかり書いている。
自分なながら呆れるほど、歯の浮くような、いやらしいお世辞なども書くのである。どうしてだろう。なぜ私は、こんなに、戦線の人に対して卑屈になるのだろう。私だって、
いのちをこめて、いい芸術を残そうと努めている筈では無かったか。そのたった一つの、
ささやかな 誇りをさえ、私は捨てようとしている。戦線からも、小説の原稿が送られて来る。雑誌社に紹介せよ、というのである。その原稿は、用箋に、米つぶくらいの小さい字で、くしゃくしゃに書かれて在るもので、ずいぶん長いものもあれば、洋箋二枚ぐらいの短編もある。私はそれを真剣に読む。よくないのである。その紙に書かれてある戦地風景は、私が陋屋(ろうおく)の机に頬杖をついて空想する風景を一歩も出ていない。新しい感動の発見が、その原稿の、どこにも無い。「感激を覚えた」とは書いてあるが、その感激は、ありきたりの悪い文学に教えこまれ、こんなところで、こんな工合に歓迎すれば、いかにも小説らしくなる、「まとまる」と、いい加減に心得て、浅薄に感激している性質のものばかりなのである。

***

だんだん 太宰治の「言えない」ことの内容が見えてきます
それはもうこのなかで書いてあるので わたしが書くと へたでしょうと思います。
太宰治という作家が どのようにして 死に向かっていったのかを 知ることになる
ような 文。 慰問文を書く 戦地からの書き物を読む こういうことを 続けていたらまきこまれてしまうでしょうね。








 


《 2018.07.20 Fri  _   》