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できごと
「たとえばだなあ おまえのうちの 廊下に でかいありがいるとする」
ーそれほんとうのはなしなんですか
「まあ そうだな そのとき おまえならどうする？」
ーほんとうですと 殺ります
「はじきでか？ でかいといっても おまえの人差し指より 小さいんだぞ」
ーねらいは はずれやすいかもしれませんな
「そうだ おれたちはな 小さかろうが ありだと パニックになるんだ」
ーそうでやすなあ 足で ひねりつぶせば ことたりるんじゃないすか
「そうはいかねえ 大きいありが 山にいないで ここにいるということで
ぶるると なっちまう」
ーさいでがす
「それもだよ そのおおありは わしにおそいかかってくるどころか
にげはじめる どこかに このばかでかい わしという生きものに
見つからないところは 無いものかと だろー？」
ーにげると おいかけたくなるのが わしらの癖ってことはないんでやしょうか
「それは あるかもしれねえな だがよ いじらしいとおもわねえか
手には 銃も刀もない ただ にげるだけだぜ」
ーたしかに
「おい！ おれはそこのところがわかったから ん にがしてやろうとな」
ーなかなかのお心がけで
「ところが このありをどうしてもつかめねえんだ」
ーぶるる 同じで
「だろー つかめねえんだよ このわしがよ」
ー親分 それで ありはどうなったんですか
「ばっきゃろー おおありだろ 手下に ふくろをもってこさせて」
ーもってこさせて？
「はえたたきで 殺ってから 逃がそうと思ったんだ だが それじゃあ
逃がしたことには ならねえな」
ーはい
「しかし はえたたきでたたくまえに そのおしりをちょいとおすと なんと
やつは ふくろに こそこそと入った はいったのよ！」
ーへえ 涙なしには
「それで 階段を 転げそうになって 降り がちゃがちゃと玄関のかぎをあけ
庭に袋をおいたんだ 出口を向こうに向けてな」
ー出て行きましたか
（一呼吸おいて）
「出て行った おれは おれは」
ー感動されたんですね
《 2018.05.19 Sat _ ペラ本 》