NEKO美術館 成瀬憲子

「思い出は移し取れるか」　NEKO美術館発

このあいだは　風呂の残り湯が蛇口から出てくる　洗濯場のことを

移し取ってみましたね。５０年はたってますからね　思い出は宙に浮いていますね。

さて　この花瓶は　きれいなしゅういろでした。床の間のらんまのところに　ありました。　いや　こんな場所名はないですよね。

ほら　掛け軸をかけてある　一段たたみより上がったところ　なんて言うんでしたっけ？

そのむかって右側に　開き窓それも　よく他所の家にもあったような窓の前にこういうものがおける　幅３０センチぐらいの場所があったんです。

そこで　こしかけてみたりして　私は退屈してましたね。

そんなところにいつも　この花瓶があったんです。クジャクの羽１本　それがクジャクの羽の形が描けないのです　たまに見ることがあるにも拘らず。

それと年季の入ったうちわ。

父はクジャクの羽などに感動するタイプ。これもきっと父が手に入れたものでしょう。

わたしだって　学校の帰りに　クジャクの羽を見つけたりしたら　ひろって　大騒ぎして

みんなに見せますね。でも毎日　この花瓶には　この２つのものがさしてありました。

クジャクの羽が入ってるから　花を挿し込むわけにはいかなかったのか　ここの場所に変化をもとめるのを忘れ切っていたのか　それなのに　思い出そうとするなんて。

あなたのおうちには　玄関やテーブルに花がいけてありますか？

わたしのところは　外には　花がけっこう咲きます。水仙やチュウリップ　名も知らない花など。

春になると　それは美しいと思いますが　花瓶にさすことがほとんどありません。

喫茶店で小さなビンにさしてある花　きれいですね。お医者さんのところにも　きれいな花が。夫セイのお姉さんが　だまって庭から花を切って来て　さしてくれました。

「こんなにきれいに咲いてるのに」そういいながら。

なんのはなしでしたっけ？

そうそう　５０年前にあった　クジャクの羽とうちわのはいった　しゅういろの花瓶。

こんどは　何を思い出すのかな。