「猫たちの隠された生活」エリザベス・M/・トーマス 草思社
カラハリのライオン つづき
ライオンが、人間の存在と人間の挙動に強い興味をもっているように思われたことも、いくたびかあった。振り返ってみてあらためて興味を引くのは、彼らが脅威であったり(それはたしかだった)、危険であったり(その可能性もあった)、という点ではなく、ライオンたちがわたしたちとコミニュケーションしたがっているように感じられた点である。おそらくただ自分たちの気持ちを伝えるために、あるいはわたしたちになにかを要求するために。
ライオンはジュ・ワ族の言葉と見ぶりによる命令を正しく理解し、それに従いさえしたが_言葉と身ぶりは人間同士のために作られたものを、そのままライオン相手に使ったにすぎない_、いっぽうのわたしたち人間は、ライオンを理解できなかった。ジュ・ワ族ですら、理解していなかった。彼らほどライオンをよく知る者はいなかったのに。ガウチャのライオンには人間の要求が理解できて、人間には彼らを理解できないのはなぜか?ライオンには、人間以上に異種間のメッセージを読み取る能力があるのだろうか?はたして人間はライオン以上に、メッセージを読み取る能力があるのだろうか?はたして人間はライオン以上に、メッセージを伝えるのが巧みだろうか?誰にも正確なところはわからない。