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猫たちの隠された生活

「猫たちの隠された生活」エリザベス・M・トーマス

 わたしたちは星明かりを頼りに徒歩で出かけた。足音を忍ばせ、ライオンの息づかいや、
傷ついたライオンがたてるであろう低いうなり声を聞き逃すまいと耳をそばだてた。二頭の匂いも嗅ぎ取ろうとした。そしてついに、かすかなうめき声が聞こえた。その声をたどり、懐中電灯をむけると、そこにライオンが見えた_雄で、すっかり成長はしていてもたてがみはまだなく、群れを離れるには早すぎる若さである。深手を負い、横むきに倒れたまま起き上がることもできない。わたしたちは彼を絶命させるまで、何度も銃を撃たねばならなかった。そして弾丸が命中するたびに、彼は声を上げた。わたしの人生でも最悪の瞬間に数えられるこの場面は、いまも昨日のことのようにまざまざと目に浮かび、胸がつまる。ライオンはわたしたちが傍らに立って弾を撃ち込むあいだ、頭をのけぞらせ顔をそむけていた。視線をそらせば、わたしたちが攻撃をやめると思ったのではなかろうか。
 もう一頭のライオンは見つけることができず、何時間も捜索したあげくあきらめて、翌朝もう一度探し直すことにした。空が白み始めたころ、若い男が発砲した時ライオンたちのいた場所で、弟とわたしは一頭のライオンが大きく跳躍した跡を見つけた。キャンプから15mと離れていない場所で、つぎに跳んだ先に、心臓を撃ち抜かれた雌ライオンの死体が横たわっていた。彼女も、雄ライオンとおなじく、まだ若そうだった。白い腹にはまだ茶色の斑点が残っていた。その毛皮もまわりの草も、冷たい夜露に濡れていた。いや、ぜんぶが濡れていたわけではない。彼女のすぐ横に、わたしたちは草が平たく押しつぶされた暖かくて乾いた場所があるのに気づいた。まわりを見回すと、草のあいだに一部黒々と地面がのぞき、なにかが夜露をはねのけた跡があった。その跡をよく見ると、押しつぶされた草の茎が首をもたげはじめている。あちらでも、こちらでも。そしてゆっくりもとにもどりはじめた草の下に、巨大なライオンのまるい足跡が見つかった。たったいままで、そこにいたらしい。夜露がおりるあいだ、この巨大な雄あるいは雌のライオンは、死んだ雌ライオンの傍らにとどまり、わたしたちのキャンプの見える場所で、わたしたちの動静をを全て把握し、一部始終を聞き取っていたのだ。夜中じゅう寝ずの番をしながら、そのライオンは死んだ雌ライオンの体を、毛の流れとは反対方向に舐めてやっていたのだった。

***

このシーンは もうだまって読むだけにしましょうか。


《 2017.10.11 Wed  _  1ぺーじ 》