「生きるとは自分の物語を作ること」 考える 新潮社 2008
河合隼雄 小川洋子 対談 つづき
河合 ええ、その人の物語を作っていることになる。
箱庭で非情に感激したことがあります。大人の方で、ものすごく難しい方が来られたんです。僕の能力の限界を超えたすごい人で、こっちもしんどくてたまらなくて、困ったなと思いました。そこで窮余(きゅうよ 苦しまぎれ)の一策、「箱庭でもしませんか」って言うたんです。そしたら、すごい箱庭を作られた。僕は「あっ、これでいける」と思って、嬉しくなりました。
それで次の週に「箱庭またやりますか」と聞いたら、「やります」って言う。そして、「先生はこの前私の箱庭を見て、これで治せると思ったでしょう」と言ったんです。
小川 怖いですね。
河合 すごいでしょ。その後さらにこう言われました。「私は治してもらうために来ているのではありません」。
小川 すごい。レベルがちょっと違いますね。
河合 僕よりずっとスケールが上ですよ(笑)。「何のために来てるんですか」って言うたら、「ここに来るために来ております」って。
小川 それはもう宗教的ですね。
河合 ええ。本当にすごいです。その時は、感激しました。
***
「私は治してもらうために来ているのではありません」
「何のために来てるんですか」
「ここに来るために来ております」
これはどういう意味なのか 首をかしげております
しかし 自分なら 河合先生のところまで 行くというだけでも
大変なので 「ここに来れるのが 目的です」ぐらいなことは 言っているかもしれませんね。
この方の箱庭 どんなものだったのでしょうね
*
さてこの写真 アトリエの 一舞台です
ちいさなぞうが よるになると ちいちゃなのっしのっしで
長い鼻で いろんなものをさわりながら 歩いてるかもしれませんよ
せんだって 戸の所にいたかたつむりは 最初のとうめいな跡を残したまま
いなくなりました
よもぎのところで 姿を見せてくれたかまきりも その後のことはわかりません
こんな小さな 草むらなのに 小さな生きものが こうしては
あらわれたり きえたり
お盆が近づいて来たので どこからかお経を読む声が
聞こえてきます