who am ?I

PAGE TOP

  • 10
  • 29

蓮以子 80歳

「蓮以子 80歳」 北林谷栄 1993 新樹社

開頭手術からの生還

 ここでふたたび編輯者からの指示の文書に戻るとー「アメリカで倒れられて手術をし、現在リハビリに取り組まれているようですが、その間の経過をできるだけ細かく描写して下さるようにお願いします」
 できるだけ細かくにも何も、頭の手術でガス麻酔をかぶせられる前後のことはまったくの空白。めずらしい体験だからおぼえていたかったのだが今やなんの痕跡をたどることもできない。
 アメリカまで駆けつけてきた息子の弁によれば「とにかくゾッとするような顔だったよ。額のまんなかからこめかみにかけてギジャーと切ってあって、ホッチキスで皮をとめたのがズラリとならんでいて、劇画のフランケンみたいな顔だナ」
「もういいよ、きかせないでおくれ。あたしァとても平穏で甘美な世界を通過したあとみたいないい感じがどこかに残ってるんだよ。死ってああいうかんじのものだとしたら悪くないねェ」
「アアラ、あんなこと言ってー」例のタバァタが横から言う。
「甘美な世界どころですか。地獄の底からのような声でうめいていましたよ。その声ったら。イターイ、イターイって」
「わたしゃおぼえないよ。そんなこと言うかァ。このワタクシさまが」
「生還」するとすぐ、この小ぜりあいがはじまるー。
「おぼえないどころですか。ドロボーに追いかけられて頭を七回包丁で刺されたって言ってらっしゃったんですよ。それが確かにホッチキスで七カ所とめられているんです。七回って勘定していたんでしょうか。変なとこはしっかりしているんですねえ。不思議ですねぇ」

***

あの世にいってきたような 北林さん このシーンは私の感想文などじゃまでございます。つづきでまたお目にかかりましょう。

さいならさいなら

《 2016.10.29 Sat  _  1ぺーじ 》