トットちゃんとトットちゃんたち 黒柳徹子 講談社 1997
インド・1986年
「あなたの、お幸せを祈っています」
私は、静かに、子どもたちの様子を見ながら病室のいちばん端に寝ている男の子の枕元へ行きました。十歳くらいの子で美しい大きな目をして私を見ていました。先生は「治ります」とおっしゃったけれども、それは、私を安心させるためにおっしゃった、と思えるほど、その子は、ひどい状態でした。
先生が「触ってみてごらんなさい」とおっしゃったので、私は、その子の骨が見えるように痩せた足に触ってみました。もう、かちかちで、人間の足とは思えないほどでした。それは破傷風の特徴でした。筋肉が硬直して、何もかも、かちかちになっているのです。熱もあり、苦しそうでした。
私は、その子が私を見ているので、日本語で、そっと、話しかけました。
「お医者様も一生懸命やってくださっているし、治るとおっしゃっているから、元気を出して、頑張るのよ」
その子は私のいったことを聞くと、のどの奥で「ウ、ウ、ウ」......というような声を出しました。そのとき気がついたのですが、筋肉が硬直するというのは、手足だけではありません。唇も、舌も声帯も顎も、全部なのです。でも、その子は、一生懸命に何かいいました。私は看護婦さんに、なんていってるのか、聞きました。看護婦さんは、その死にそうな子が、「あなたの、お幸せを祈っています」
と私にいっています、といいました。
私は、言葉がありませんでした。
私は元気で、食べる物もあります。破傷風の予防注射もしています。それなのに、この子は、「予防注射もしてもらえなくて」と文句もいわずに、私に「あなたの、お幸せを祈っています」と、死の淵に立っても、いってくれているのです。私はただ、「ごめんなさいね、予防注射、してあげられなくて」というのが精いっぱいでした。
思ってもみないことでした。
私はたまらなくなって、その病室を出ました。
***
かわばたエプロンさんにこの本の1ページをプレゼントしようと思って打っていました。
そしたらね この本をはじめて読む私なんだけど この話は あなたを悲しい思い出に連れて行くのではと 心配になりました。
打ってしまってから 迷ったんだけど あなたがユニセフの住所シールを封筒に貼っていたのを 思い出して やっぱり偶然選んだぺーじなのだから このままでいきます。
この袋は いつものようにみんな手縫いです。エプロンだってなんだって手縫い。
こんな幸せに恵まれて私はいいのかなぁ。ありがとうございます。
このインドの男の子の話を読んでいると そんな気持ちになりました。
「あなたの、お幸せを祈っています」といったインドの男の子