who am ?I

PAGE TOP

  • 08
  • 19

木賃宿に雨が降る

スキャン2404.jpeg
「木賃宿に雨が降る」高木護 未来社 1980

風便り

  風便りとかけて
  あなたは 寡婦(かふ )になったかと解く
  その心は
  もっと便りを聞かせておくれ

 わたしは家出同然で、下駄履きのままふるさとを捨てたが、あれから十四、五年も経ってみると、ふるさとの風便りはなつかしい。
 風便りというのは、だれから知らされるともなく、聞かされるともなく、耳に這入ってくる噂話でもあろうか。それだからといって、一体だれから聞かされたのだろうか、ほんとうだろうかなどと、一々真偽のほどを詮索する必要もないだろう。
 風便りを耳にしたら、せいぜいなつかしむことだと思う。
 わたしのところにも、たくさんの風便りが届けられる。
 村が町になったこと。
 竹の谷部落の吉ヤンが尻けつから、めでたく町会議員とやらに初当選して、さっそくどこからかモーニングというものを仕入れてこらしたが、大男の吉ヤンにはちんちくりんのこと。
 タブシバ水車が廃業したこと。
 小川にセンペイという海魚に似た魚がいたが、農薬のせいか、全滅寸前とのこと。
 ミス竹の谷部落のヨシベエが村に帰ってきて、ないしょ子を産んだこと。
 ヒロベエがどまぐれムコどんに先立たれ、若後家どんにならしたこと。
 山師の芳ヤンの中気にならしたこと。
 ツンボ谷から、大鰻(うなぎ)のはいだしてきたこと。
 亀ヤン、多ヤン、平ヤンのあの世に逝かしたこと。
 ナムアミダブツーである。
 十年一昔というが、ふるさとを捨てて十四、五年ともなると、あの終日眠りこけたような惚けたふるさとにも、様々な出来ごとが起こったらしい。
 だけど、風便りだから、
 ふふん
 へえ!
 ほう
 そうかい
と頷いたり、たまがったりして、耳を貸してやるすべしかなかった。
 竹の谷部落のヨシベエといえば、わたしには母親のほうの顔しか浮かんでこなかったが、町の人のように色白で、村には勿体ないような美人だった。それなのに後家どんのせいか、村では芳しからぬ評判を立てる人で、タコとかツボタン後家とか噂されていた。
 タコとかツボタンとかいうのは、どうも男好きとか、男癖が悪いということらしかった。
 ヨシベエも母親のように色白で、なかなかの美人らしかったが、母親の血まで受け継いだのだろうか。
 ヒロベエが後家どんになったげな、という風便りを聞かされたとき、わたしはドキリとした。
 ヒロベエとは他人ではなかった。
 もし二人の道がまっすぐで、曲がりくねっていなかったら、わたしは炭焼きか山作百姓をやっていて、ヒロベエは()どんになっていてくれたかもしれなかった。ところが、ヒロベエは炭焼き男がきらいになったのか、広手の大百姓の嫁さんになってしまった。つまり捨てられたのは男のわたしのほうで、二、三年はおなごはみんな鬼のように見えてならなかった。それでヤケになったわけではないが、わたしは人夫になった。しかも、飯場まわりの流れ人夫に。
 あのヒロベエが後家どんになったのか。
 ざまみやがれ!といってやりたいのに、どうしたことか、反対にわたしの胸はときめいてくる。

 風便りは怨めしい。
 しかし、もっと聞きたい。

***

()はおんなへんに鼻です。よめじゃないし 漢字はかんじんなところでむずかしいですね。
この「風便り」かってそこに住んだことのある者には 「ふふん へえ! ほう そうかい」となります。

そしてその風便りなかには ヒロベエという かっては一緒に暮らしたことのある女性の話があったりして。このヒロベエはヨシベエ親子とは関係ないですよね。ベエという呼び方はまるで親戚か親子のように思えるのでね。

わたしも田舎で高校卒業まで育ちましたけど そして残念ながら美人ということではありませんでしたが 美人のことはこどものころからしっかり見ていましたね。 大人たちが噂するほどの美人のほかに 自分が見つけた美人 お化粧もそんなにしていませんでしたが美人は美人で(笑)。「おまえは男か」そうじゃないのですが。

高木さんはヒロベエに捨てられたといっていますが それから高木さんは炭焼きの仕事から人夫になりました。そして「ヒロベエは広手の大百姓の嫁さんになってしまった」
「二、三年はおなごはみんな鬼のように見えた」と。

それから高木さんは風の便りに 大百姓に嫁入りしたヒロベエは どまぐれムコどんに先立たれ、若後家どんにならしたこと。「どまぐれムコどん」もどういう人のことを言うのかなぁと考えましたが まぁ 人生はいろいろですね。

「風便りは怨めしい。
しかし、もっと聞きたい。」
そうですよね

そうそうちょっと恒例になりました NEKO美術館発の作品 見てちょう。
この長靴を持ってよだれを垂らす子供は きのうの孫の父親です。その手前にあるのは父の焼き物。蓮をお香入れにしています。わたしはその焼き物の裏を写してみました。
好きですよこういうことするの。こうするだけで面白く見えませんか?
そして石たち。
「風便り」ふむ 年月は人を父親にしたり おじいさんにしたり そんなことが風に乗って

さいならさいなら

《 2016.08.19 Fri  _  1ぺーじ 》