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交野日記

フーフー通信 交野日記の続きです。

交野日記

 それから、もうひとつ。最初にこのスナックに電話をかけた時もいってたけど、今夜はぼくの家に泊まりなよ、風呂にもはいってさあ、というのを、ここでもくり返すのだ。家はここから15分ほどのところで、ひとり住まいなんだからという。このひとり住まいというところで、ぼくもちょっと意外な気がして、
「へーっ、結婚されていないんすか。どうして?」
 とびっくりしたような顔で訊いたけど、
「まあ、女の人はいろいろあったけど、ね」
「結婚するほどの人とはめぐりあわなかった」
「そうね」
「じゃあ、食事や洗濯なんか大変でしょ」
「近くのおばさんがやってくれるよ。お金よ、お金があればなんでもしてくれるよ」
「ふーん、それも気楽なんでしょうね」
 とぼくは相槌を打ったわけだけど、「泊っていけ、風呂に入っていけ」
 としっこくいうので
「いやあ、どうしても今夜は帰らないと、ちょっとした急ぎの仕事、明日中に手渡さなあかんのがあって」
 と実際、新聞のカットのことも気になってて、そう返事していたのだけど。
 この辰巳いうひとは、ちょっとした口ひげをつけていて、おでこがかなりハゲ上がっ
ていて、そう、目はふたかわで、くりっとした目は、流し目で相手の体をさぐるようでもない。でも、高級洋装店を経営してる人としたら、なんだか品がなく、頭もそういいふうには思えないのだが。
 辰巳さんは、しきりと、「ぼくにまかしときなさいよ。ぼくがナルちゃんをうまくしてあげるよ。ナルちゃんが描いた絵、ぼくがこれからはどんどん売って上げるよ。ナルちゃんにはぼくがついていれば大丈夫だ」
 といろいろ喋ってくれるのだが、今日はじめて出会った人から、こんなうまい話を聞かされるのは、ぼくとしてははじめてのことで、それも、おたがいが無二の親友みたいに、何もかも意気投合したみたいなものいいなので、ぼくの気持ちとしては彼の喋りに合わせながらも、やっぱりどこか不安でもある。
 ぼくは、訊きにくいことだな、と思いながらも、
「辰巳さん、ひとつだけ質問していいですか」
 としどろもどろでいってみた。
「ぼくとたつみさんとは、今日昼間お会いして、まだ間もないのに、どうしてこんなにぼくのこと、応援と言うか、なんというか...」
 とたんに、辰巳さんは、まゆを歪めた顔をして、ぼくを突き放した表情になって、
「ナルちゃんは、だからバカだっていうのよ。それをね、それをいっちゃあ、おしまいじゃないの」
 と、さも、ぼくのことを腹立たしい目でいうのだ。

***

いやあ、もう長い この話は。 ちょっと、はしょったとしても とにかく長いのです この二人のやりとりは。
 そうですね 私が80歳まで生きてたら 80歳で その続きを打ちます はい (誰もきいてないって)
 いずれまた
《 2016.02.21 Sun  _  エッセー 》