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交野日記

フーフー通信 1986 交野日記の続きです。

 僕にはこの辰巳さんが、どうして僕が絵のお金を先にもらわなかったことが残念なのか、おかしな人だ。
「ナルちゃん、ナルちゃんはね、ぼくの後輩なんだから、ね、いいかい。ぼくの後輩ということにしておかなくっちゃ、だめなんだよ」
「え? 後輩というと.....」
 変なことをまたいうので、
「ここではね、ここのママさんにもそういってるんだから、ぼくの友達にも、あとで八人来るっていってたその友達にもそういってるんだから、でないとぼくは困るんだから。わかるだろ、ね」
 といわれても、どうしてぼくが辰巳さんの後輩でなければ辰巳さんが困るのかわからないのだ。
「大学の後輩だよ。あのね、ぼくの後輩ということはだね、このママさんだって、ぼくをとおしてぼくの後輩としての君を見るだろ。ぼくと同じような人間を想像するわけだよ。さっきだって、そうだよ。ナルちゃんから電話あって、ママさんと一緒に探しに出たけど、ママさん、ナルちゃんのこと気づかなかったじゃない。ぼくの後輩だといってるもんだから、当然ぼくのような人を想像するんだよ。ね、こう、パッとした服を着た人を想像するんだよ。ナルちゃんはぼくの後輩なんだから、もっとぼくのようないいものを着なくっちゃ、ね」
 ぼくが着ているものといったら、数年前に買ったジャンバーにジーパン、それにズック靴だ。たしかにいいものではないが、ぼくに似合ってないわけでない。ぼくだって、お洒落に関心はある。ほんとに辰巳さんて、おかしなことをいう人だ。
「大学って、どこの大学ですのん?」
 と訊いたら、
「関西学院大学」といって、照れてるのか、ごまかしてるのかのような顔して、体をうしろよこにそらして、
「運動してたのよね、ぼくも」
「運動って、なにかスポーツクラブですか?」
「赤旗ふってたのよ」
「へえーっ、ぼくもですよ。辰巳さんのころといったら60年安保デスか?どこのセクトでしたん?」
「いや、まあ、あとで来る友達もみんな一緒にやってたわけよ。正義感。正義感だよ、あのころは。でもいまは、みんなぼくみたいにお金もうけて、いい身分だよ。そりゃ、ぼくはよく働いたよ。働くときはぼくは人の二倍三倍も働く。そしていまはこうして人に働かせて遊んでられる身分になった。ナルちゃん、あれ、なんだかわかる?」急にこんなことをいうので、
「あれって?」
「あのブレザー、なんだかわかるかね」

***

「関西学院大学」で気がつかな。でも次に「赤旗ふってたのよ」でとたんに空気が変化。
いずれまた
《 2016.02.19 Fri  _  エッセー 》