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交野日記

『フーフー通信』の続きです。

交野日記

 7時過ぎ、会場を閉めた(ここは個人の所有する画廊でなく、ビルの中にある特設会場
なので、鍵の開け閉めは会期中は自己管理である)あと、僕は紙きれの番号に電話した。
「おわった?そう。たくさん売れた?」
「はあ、九点売れました」
「そう。九点も売れたの。成功じゃない」
「はあ、よかったです」
「そりゃよかった。九点も初日で売れたらたいしたものじゃない。よかった、よかった。出ておいでよ。今日これから予定ないんでしょ。友だち八人、ここへ来るからさあ、友だちにあんたの絵買わすから、出ておいでよ。紹介しとかないかんだろ、友だちにあんたのこと。今日は僕とこへ泊って帰ったらいいじゃない。風呂にも入って。いいんだろ。じゃあ、これからすぐおいでよ。待ってるから」
 ちょっと調子がよすぎるんじゃないかと思わないでもなかった。こんなにうまく絵が売れるなんて、こりゃ、なんかあるのかな。でも、まあ出かけてみるか。ハッキリするとこまで確かめてみるか。
 地下鉄の梅田からなんばの駅で降り、いわれたとおりタバコ屋の横からスナックの人らしい女の人と辰巳さんが地下から出てきて、僕に気づかず、二人してキョロキョロしている。
「よかったね。ナルちゃん。九点も売れたの。あんたの絵は売れるって僕行ったでしょ。お酒のめるんだろ。さあ、のみなさいよ。よかった、よかった。ナルちゃんは大丈夫。絵描きとして大丈夫だよ」
 カウンターに並んでビールをさっそくついでもらったのだけど、「ナルちゃん、ナルちゃん」となんだかひるまよりいっそう親しくいってくれるのが、変でもあり、うれしくもある。
「それで絵のお金どうしたの?もらった?」
 と訊くので、
「いえ、もらってません。絵とひきかえにもらおうと思って」
「えっ、手つけももらわなかったの?」
「はあ」
「ばかだなあ、ナルちゃんは。だからナルちゃんは商売がへたなんだよ」
「だって、そんな約束やぶるような人でなかったから。僕の友だちとか、その知人でしたから」
「だけどね、ナルちゃん、それではいかんのよ。おかねもうけというものはね、いいかい、ナルちゃん」
 といって、辰巳さんはお金もうけのこと、絵をどうしたら売れるかということを喋りだすのだ。そして、
「ほんとうにお金もらわなかったの?」と同じことをまた訊きかえしては、さも残念がるのである。


***

4人もこどもがいて妻と犬のミッキーまでいる この貧乏絵描きナルちゃんは 「お金をもらわなかったの?」とさも残念がる辰巳さんのことを ビールを飲んで真っ赤な顔をして ぼんやりかんがえているのでした。
 
いずれまた
《 2016.02.17 Wed  _  エッセー 》