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交野日記

スキャン1994.jpegフーフー通信里帰り篇の続きなんですが 1986年 夫は39歳 私は37歳の頃のはなしです。
第20号では 夫のエッセイがふるってますね。この人は 自分に起こったできごとを そのまま丁寧に書いているので 面白いのです。

ここでは二つの話があります。一つは洲之内徹さん(1913年生まれ、銀座の現代画廊を経営されている。72歳 当時)の「気まぐれ美術館」(新潮社芸術新潮)の連載 に夢中になっている話

もう一つはこれが長いんです。このフーフー通信は夫の手書きの印刷です。
何回かにわけて書こうかな。
というわけで このもう一つの話を 人差し指で打ってみましょうかね。

十月五日のこと

個展の初日のことを書こうと思う。
一人の男性がふらっと個展会場に入ってきた。歳のころ四十五、六といったところか。その人はひととおり壁の絵を眺めたあと、
「あんたの絵、ええなあ。売れるで、あんたの絵。このなかで二つほしいのがあるなあ」
 というのである。
 その言葉で僕は内心、うれし!とおもったことはいうまでもない。でも顔と言葉には、あんまり出さないようにして、
「そうですか」と、ちょっとトボケたような返事をしておいて、
「絵、お好きなんですか」
「そうや、絵はよう買うんよ。ひるまはいつもこうして画廊見て歩いたりしとるんよ」
「へえー、お仕事せんと?」
「仕事?仕事は人がやっとる。金もうけは人を使ってするようにならんといかん。いまのわたしはこないして好きな絵見て歩くのが仕事みたいなもんや」
「へえー、うらやましいようなご身分ですね。なんの仕事してはりますのん?」
 と、まあこんなふうに話ははじまったわけだが、男はこの梅田の三番街ともうひとつほかに高級紳士服の店を二軒持っているという。僕はまたまた内心、わあー、この人お金持ちなんやわ、今度の個展はなかなか幸先いいぞ、と思ったものだ。さっきの画家のNさんも、「わたし、同業者の買うなんてはじめてよ」と、うれしくなるようなことをいってくださって、一点買ってくれたし、そのとき着ていた友達の友達も一点買ってくれたばかりなのだ。
「あんた、ひとりでやってるの?」
 男の人は、ひょいっと、こんなことをいきなり訊くので、
「えっ」と思って、「はあ、ひとりで絵描いて、ひとりで店番して、ひとりで売ってるんですけど」と答えたら、
「そら大変やないの。オシッコいく間も、昼ごはん食べに出ることもでけへんやないの」
と、えらいびっくりしたような声出して、
「昼ごはん、食べたの?」
と親切にもたずねてくれる。
「はあ、今朝ここに来る前に、大阪駅の立ち食いうどんで、おはぎ売ってたから、おはぎ買ってきて、さっき、ここで食べました」
「オハギ!オハギ食べたの!アハハハ、オハギ好きかね、あんた。おもろい人やな。昼めしにオハギ食べた、アハハハ」
 おはぎが大好物ですといったら、びっくりしたように、あるいはあきれたわ、という顔して笑う人が時々あるけど、この人も、びっくりして、あきれて、笑い出した。
「オハギか。オハギ食べたのか。こらあ、寿司でも差し入れしたらなあかんなあ。今度来る時、スシ差し入れたるわ」
 なんだか、えらい親しみぶかくいってくれるので、うれしい気持ちもあるけど、この人の喋り方といい、高級洋装店の社長さんにしたら、かわった人やなあ、と僕は思ったものだ。
 そのうち、彼は、「あんたの絵売ったるわ。ぼくにまかしとき。ぼくの友だち十人ぐらいに売ってあげるから。ぼくの友だちもみんなぼくみたいな生活してるやつばかりやから、あんたの絵、友だちも買うよ。第一安いやないの、あんたの絵。吞み代よりも安いよ」といって、「ちょっと友だちに電話してきてあげるわ」と会場を出ていった。
 まことにもって、僕はいま、幸運をはこんできてくれる人に出会ったというほかない。

***

この話はこの後続いていくのですが そのころ我が家はなかなか厳しい経済状況でした。「どないしたら 絵で飯を食わせて行けるかなあ 妻子を」と思っていたころの話です。
そうそう 犬のミッキーもいました はい。
この夫のオハギ好きは いまは控え気味です。何でも食べ過ぎはいかんので。続きはいずれまた。
この里帰り「フーフー通信」わたしにはとても新鮮なものになりました しーちゃんありがとう!しーちゃんは 美保関に帰ってからも 子どもたちや私たちに 食べ物や服を手紙と一緒に送ってくれました。手紙のやり取りは そうして今まで続いているのです。
しーちゃんは 部屋を片づけようと このところ がんばっているらしいのです。しーちゃんのおばあちゃんとしーちゃんはかたずけられない人々なんだそうです。おばあちゃんは亡くなりましたから「人」。片づけ方ご指導くださいと 電話でしーちゃんが言うのでしたが どっこい私は笑うしかありません。たぶん 私の方がうわてだと誰しもが思うでしょうから。何の話でしたっけ?
うわてって こういう時に使うんでしたっけ?

《 2016.02.15 Mon  _  エッセー 》