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お巡りさん

『現住所は空の下』高木護著 未来社 1989年の本です。

ここのところ 高木護さんの本を読んでいますが ファンとしましては 高木さんの書かれたものを一人で読んでるのは もったいないと お裾分けすることにしますね。


お巡りさん

 風が吹いてくる。
そうろうと吹いてくる。よろけているのは風ではなく、わたしのほうかもしれないが、そうろうと吹いてくる風に吹かれていると、そうろうが候といった感じになってくる。
 ー風でござ候、秋でござ候
 というように吹いてくるようである。
 時代が逆流して行く。
 ちょんまげ時代になる。世が世なれば、やっぱり小作の水呑み百姓だったろうが、運がよければ足軽くらいにはなれたかもしれない。足軽になれなくとも、頑張ればニセ侍や、浪人や山賊くらいにはなれたであろう。ニセなら、坊さんや修験者にだってなれる。
 そうろうと吹いてくる風に吹かれて、ーで、ござると歩いた。行中だったという、問答好きのニセ坊さんに出会ってから、ござるというのが口癖になった。
 わたしでござる。拙者(せっしゃ)でござる。みどもでござる。わいでござる。おいらでござる。おどんでござる。ぼくでござる。ござる、ござると歩いた。

***

せっしゃ 今から出かけなくてはならぬ。つづきは「ぱーと2」にて。あたまがたおれないかぎり あとで打てると思い候。待ってちょうだい候
ニセ侍か そんな人は侍以上に侍らしくしないとね。 でも途中でおかしなこといってみたりして そのやりとり コント侍なり
さて その続きでござる

 山の麓の小さな町にさしかかっていた。不意に、
「こら、待て!」
 よび止められた。それなのに、「あいや」というように聞こえた。だが、声に刺があり、横柄なので、わたしは聞こえないふりをした。
「おい、かんじん、待たんか!」
 怒鳴り声になった。わたしはわざときょろきょろして、自分ではないだろうという素振りをした。 垢よごれているし、裸同然の姿で、はだしときているから、ルンペンやかんじんに見えるかもしれなかったが、頭からかんじんよばわりされるのは心外だった。「だれかいた」と見ると、お巡りさんがこちらを睨みつけていた。
「こっちに、こい!」
という。
「おいらでござるか」
わたしは自分を指差した。
「おいらとはなんだ」
「拙者でござる」
「ぞうくっとるとか、ふざけたこつばいうな」
「いとまじめでござる」
「つべこべいいよると、ぶち込んでやるぞ!」
 おどかしにしても、きちんと身につけた制服には似合わないことば遣いに、内心ふふっと笑ってしまった。
「どっから、きたっか」
「どこからと訊かれても、こまるでござる。あっちのほうから、ぶらぶら歩いてきたっでござる」
「本官を侮辱しとる」
 お巡りさんは顔を真っ赤にした。
「しとらんでござる。拙者のもうし方が気にいらんでござるなら、すみまっせんでござる。許してくだされ」
「なまえをいえ」
「なまえでござるか、ええと.....」 
 わたしはなまえと本籍地もいった。ついでに年齢もいった。何かこたえるあいだは不動の姿勢をとった。
「どこさん行きよるとか」
「はい、ただぶらぶら歩きよるだけでござるから、どこさんか行きよるとじゃなか。足の向くまま、ぶらぶらしよるだけでござる」
 いえば、いうだけ誤解されそうなので、わたしはこまってしまい、口をぽかんと開けた。
「おまい、頭がいかれとるとじゃなかろうな」
「はい、戦争で南方に征っとったもんですけん、だいぶん南方ボケになったでござる」
「そうか、そうじゃろう」
 お巡りさんは納得したように頷いた。
「悪かこつはしとらんじゃろうな」
「しとらんでござる」
「よし、きょうのところはこらえてやるけん、この町をはよう出て行け」
「はい、承知したでござる」
 わたしは不動の姿勢で、お巡りさんに最敬礼をした。ぶらぶらの罪で、もし豚箱に入れてもらえたら、ただめしにありつけたのに、おしいことをしたでござる。

***

この高木さんの「お巡りさん」を書き写していくうちに気付いて来るんでした。
 これは冗談じゃないんやと 
戦場に行かされて こんなにひどい体になって帰ってきているのに 大変なめにあわれましたねえ といたわる手を差しのべられるどころか この町をはよう出て行けとお巡りさんに言われている。 ぼろぼろのふくだと わたしだって警戒して その人に 近づくのをやめると思う。 その人の 本当のことを 知ろうともしないでね。 人を見かけで判断している。そうやってわたしは生きてきたんやなあ。 ぶらぶらしよるだけでも あやしまれるこの世の中。 高木さんの作品を読ませてもらっていて つい笑ってしまったんだけど 笑われてるのは わたしではないですか? となりました。
これはお巡りさんと高木さんの会話ですけど それだけじゃなく 次がちゃんと書けません。
熊本の方言も すぐ真似してみました。
わたしはこのところ体と頭がしんどかったのですが 高木さんの本が読みたいと きゅうっと思いましたよ。 そのときなくてはならない本 あるんですよね。
「おとうさん(夫)はよ注文して!」などと叫びつつ。

さいならさいなら




《 2015.10.06 Tue  _  1ぺーじ 》