Sちゃんからの手紙です。1982年のものです。
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連続の便りにこちらは追いかけられてるようです。
手紙をもらうのは嬉しいことです。忘れられずに。
近頃の私は毎日が仕事に仕事に追っかけられどおしで 息つく暇もなし 会社から帰るとドタッー 座り込んだが最後動くのは口だけ。 テレビはうわのそら 全く冬眠中の熊と思ってもらったら間違い無しの生活です。
おじいちゃんの詩集 自分もいずれはこうなるのかなと思ったり。
こう静かに年を取りたいものだと 願ったり。
生活にゆとりがほしいな。
季節の移り変わりにも 暖かい寒いだけではないのに 海の色 空の色 山の色にもすべてが移っているのに 自分だけが他のものから見はなされているのか 溶け込めないのか 何が何か分からずに目先の事に気を取られ 毎日が飛ぶように過ぎ去ってます。
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Sちゃん1982年のおたよりなつかしく拝見しました。
あの頃は私は手紙をいっぱい出していたんですかね。 私はフットワークは非常に重く手紙を書くのはそれよりはだいぶましというところです。 手紙ガール(今は手紙ばあさんだけど)だね。
仕事のほうは あの頃は 大忙しだったんですね。
会社勤めの人で Sちゃんのように働く人は今も沢山いるんですかね? 過労死の二ユースを目にしていたのは 大分前の話だったのか 今もあるのか あるとしたら どうしたらいいんだろうね。
このころおとうさんの(夫せいの父)詩集を出したんでしたね。 夫せいが編集して。
「ひぐれて」とか「おばあちゃんのたちばなし」とか「77才の詩集」とか「八十八才の息子」 ほかにも数冊の詩集がありましたね。
夫せいは このようにして おとうさんの何冊もの大学ノートから 詩を集めて 詩集を作ったんです。 おとうさんもそのことを楽しみにしていて いい親孝行ができたんじゃないでしょうか。 そのころはおとうさんも私たちも大阪に住んでいたんですが 大学ノートを持って「これ見てくれへんか」とやってくるおとうさんの姿を思い出します。
おとうさんは おかあさんを亡くしてから 詩を書き始めていたようです。 それはとっても小さな字で 大学ノートいっぱいに書きとめてありました。
この詩集が契機になって 読者ファンのおばあさんとデートしたり そんなこともありました。
こうしてSちゃんからの手紙で その詩集のことを思い出すことができました ありがとう。ひとつ おとうさんの詩を書き写してみますか。
老い人
老い人は 年を増す毎に 白髪はふえる 頭もはげる 顔にしわふえる 腰まがり
背はひくくなる 腰痛も起こりやすく 眼はうとくなり 耳は遠くなる
気力は失せる 血圧は高くなりやすく 一度病めば なかなかなおらない
なおればまた次々と 変わった病がでる 何時迄も医者とは 離れられない
また考えはにぶくなる 何事も忘れやすくなる そして自分には 何もできないのに
今の若い者には 負けないと強がりを言う 話をすれば 今の若いものは
なまけ者が多くて 駄目だという わしらの若い時にはと 誇らしげに
とくとくとなって 若い人をけなす 自分の若かりし時の 自慢話を
枝に枝葉を付けて 憎まれ口をたたき その上頑固である
だから人に嫌われる
然し 老人には 二通りの気性がある 一つは頑固で 人の言う事など一切聞かず
横車を押し通す型 一つは弱気で 何事にも内向的で 自分の思ってる事もいえない
人に立てつかない型 二通りの型がある 頑固な老人は 人に嫌われる事は
長寿の秘訣という 憎まれ者は世にはびこる とかのたとえ
誠にその通りかも知れぬ 憎まれ口を言っている間は まだ 大丈夫なれど
己の余命幾年と 考え気弱になれば 要注意
これは自分の知るかぎりの 老人の事を書いただけで 世間にはおいても多くの人の為に活躍して 人に好かれうやまわれ 嫌われる事なく健康に 日々楽しく過ごして居られる
老人も多い事はたしかである 自分もこのような人にあやかり 人にきらわれる事なく
人に好かれ 可愛がられ 残る余生を大切に過ごしたいと 常に心掛けてはいるが
さてどうなる事やら
おとうさんこの詩 結構長かったですね(笑)これ1978年の「ひぐれて」という詩集の中からとりました。これは76才のときの詩かな。これがはじめての詩集だと思います。
年をとることって そのつど 「こういうことなのか」と思いますがSちゃんはどうですか? Sちゃんは92才のおかあさんと暮らしているから その「こういうことなのか」もさらにありますよね。
おかあさんは Sちゃんに布を用意してもらって 着物をきせた熊のぬいぐるみを作ってみたりしているそうですね。 これもSちゃんの親孝行ですね。 おかあさんは着物を縫う人だったんですよね。 92才になってもぬいぐるみに着物を縫ってるなんてすごい! 前の回で 見ていただいた「着物をきたくまさん」です。
今はあの頃よりゆっくりできていますか?
おたよりおまちしてます