
『木の祭り』新美南吉作 大日本図書 です。
この文面の前と後ろに 文章があります。
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木の祭り
木に白い美しい花がいっぱいさきました。 木は自分のすがたがこんなに美しくなったので、うれしくてたまりません。けれどだれひとり「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。木はめったに人のとおらない緑のまんなかにぽつんとたっていたのであります。
やわらかな風が木のすぐそばをとおって流れて行きました。その風に木の花のにおいがふんわりのってきました。(前)
ところが中でいちばん小さかったしじみちょうは はねがあまりつよくなかったので、小川のふちで休まなければなりませんでした。しじみちょうが小川のふちの水草の葉にとまってやすんでいますと、となりの葉のうらにみたことのない虫が一ぴきうつらうつらしていることに気がつきました。
「あなたはだあれ。」としじみちょうがききました。
「ほたるです。」とその虫は眼をさまして
答えました。
「原っぱのまんなかの木さんのところでお祭りがありますよ。あなたもいらっしゃい。」としじみちょうがさそいました。ほたるが、
「でも、私は夜の虫だから、みんなが仲間にしてくれないでしょう。」といいました。しじみちょうは、
「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるを
つれていきました。
なんて楽しいお祭りでしょう。ちょうちょうたちは木のまわりを大きなぼたん雪のようにとびまわって、つかれると白い花にとまり、おいしい蜜をお腹いっぱいごちそうになるのでありました。けれど光がうすくなって夕方になってしまいました。みんなは、
「もっと遊んでいたい。だけどもうじき真っ暗になるから。」とためいきをつきました。
するとほたるは小川のふちにとんでいって、自分の仲間をどっさりつれてきました。
一つ一つのほたるが一つ一つの花の中にとまりました。まるで小さいちょうちんが木に
いっぱいともされたようなぐあいでした。
そこでちょうちょうたちはたいへんよろこんで夜おそくまで遊びました。(後)
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いやあ よく書けていますね。
ーー「でも、私は夜の虫だから、みんなが仲間にしてくれないでしょう。」としじみちょうにいいましたが「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるをつれていきました。ーーここが 特に「いろいろにすすめて」というところが どういうわけかよかったです。
わたしはよく、いろいろいいわけをしてことわるのですが このしじみちょうは いいやつで「どんなことをいっていろいろにすすめたのかしら」と想像しました。 まるで理屈にあいませんが「いいやつだなあ」と思いました。
さいならさいなら