近ごろよく耳にする新語・流行語のひとつ、“蛙化現象” 。私、たとえばこういうことだと思っておりました。

　とある町に住む高校生男子 Tくん。ある日、別の高校に通う Aちゃん という女子が Tくん のことを気に入っているらしい、という話を同級生から聞きます。「だからさ、お前、こんど A と一緒にご飯食べに行ってやれよ」。Tくん は、Aちゃん のことを知りません。どこで　Tくん のことを知ったのかも謎だし、何を気に入ったのかも謎。なにより、Tくん はウブです。けれど、Tくん も高校生というお年頃。しぶしぶではありつつも、どこかウキウキした気持ちで同級生からの申し出を引き受けてみることにしました。

　次の土曜日。Tくん は Aちゃん と駅で待ち合わせ、近くにあるお好み焼きを食べに行くことにしました。Aちゃん はちょっとヤンチャな雰囲気がする子でしたが、顔はかわいらしく、性格も明るい子でした。Tくん は緊張しながらもお好み焼きを食べ、その後は図書館へ行き、一緒に勉強をして束の間のデートをそれなりにたのしみ、夕方ごろ「バイバイ」をして帰路につきました。

　別の日。Tくん は同級生から「お前、まったく何をしたんだよ」と言われました。そう言われてもまったく心当たりがない Tくん は、よくよく話を聞いていくと、Aちゃん は「もう T にはまるで興味がない」と話をしているとのこと。その理由は？ その理由は、お好み焼きにマヨネーズを格子型にかけていて、しかも、きれいに等間隔。あまりの几帳面さに気持ちが悪くなった、とのことでした。Tくん は、唖然としました。Tくん は、“理不尽” という文字が脳裏に浮かんでしばらく消えなかったのだそうです。Tくん の家からは、槇原敬之の『もう恋なんてしない』が大音量で聞こえてきており、「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」というサビのあとに「いや、言うたろか！」という Tくん の涙交じりの掛け声が聞こえてきたというのは、本当なのか、嘘、なのか。今や町のちょっとした伝説になっています。

　・・・というように。“蛙化現象” とは、それまで好きだった人のふとした言動によって、急にその人のことが嫌いになる。蛙のように見えてしまう、ということだと思っておりましたが、正しくは、ちょっとニュアンスが違ったようです。正しくはこう。

　蛙化現象とは、好意を抱いている相手が自分に好意を持っていることが明らかになると、その相手に対して嫌悪感を持つようになる現象、ということ。だそうです。

　つまりは、「👩あー、好きだなあ❤️」「👨・・・実は、おれも」「👩はぁ？ ウゼーなぁ、おい💔」という大変ニッチな状況のことを指すようであります。正直なことをいえば「どんな奴やねん！」と思いますが、流行語になっているということは、そういうことは女心として割にある、ないことはない、ということなのでしょうかね。お好み焼きにかけた等間隔の格子状のマヨネーズの何がいけなかったのかと同じくらい、女心はいくつになっても不思議です。

　どうも、おはようございます。こんにちは。こんばんは。私、早川 Tくん です。

◎【Today’s Memo】は平日の毎朝8時に更新。atelier naruse 代表・早川による、ちょっとしたエッセーのようなもの、です