金言~わたしのチョッキ、あ、ベスト~ (14/08/08)

※こちらは、2012127日(金)よりatelier narusefacebookで毎週金曜日に投稿してきました『暮らしの"ピ"ント集【今週の、社長の金(曜日の)言(葉)】』の転載であり、わたしのお気に入りのチョッキ、あ、ベストです

 

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暮らしの"ピ"ント集【今週の、社長の金(曜日の)言(葉)】 

~夏休み最恐ホラースペシャル あなたもたぶん知ってる世界~

2014/08/08投稿分)

 

あれは先日の日曜日、深夜のことでした。半年ぶりとなる友人との飲み会へ出かけた私は、その帰り道タクシーを使うのもどこか気がとがめられ、徒歩では30分の時間をかけて上る坂道を歩いて帰ることにしました。酔いざましにはなりそうでしたが、あの日は雨が降っていたことと、やはり延々とつづく坂道はひどく疲れました。しずかな住宅街です。点在する街灯のほの暗い灯りだけをたよりに、足音と傘にはじける雨音だけが、ぽつぽつ、ぴたぴた、ぽつぽつ、ぴたぴたと響く深夜の坂道を進むにつれ、雨なのか、それとも汗なのか、着ている服はすっかり濡れてしまい、しかし夏なのにもかかわらず、濡れた服はすぐにひんやりと身を震わせました。

――いいえ、今になって考えてみるとあの"震え"は何かの予感だったのかもしれません。ようやく家にたどり着いたとき、ポケットのなかにある鍵を取り出し、私は玄関の扉を開けようとした、その時でした。ガタンッ!

 

キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 

......その後のことは、実はほとんど覚えていません。ただ、今にも消えていきそうな記憶の糸をたどると、家には内鍵がかかっていたこと。家の中から外に漏れ聞こえる自宅電話、妻の携帯電話の着信音を何度も聞いたこと。わずかに開く玄関の扉の隙間から、閉じた傘を忍ばせてなんとか玄関に置いてある車の鍵が取れないか、車の鍵さえあれば車中で雨風は一晩くらい凌げちゃうもんねと近所の人から見れば非常に怪しい体勢を何度もチャレンジした挙げ句に隙間から腕が抜けなくなって「もう色々ダメだ」と焦ったこと。扉が閉まるギリギリのところで内鍵をエイッと開けようとするアナログなチャレンジもしてみたこと。2階のベランダに上ろうと10分くらい2階をぼんやり眺めていたこと。なんとなく軒下に一度寝そべってみたこと。とりあえず1回、笑ってみたこと。――記憶にあるのはそのくらいです。

 

それから抜け殻のようになった私は、自分の意志とは裏腹に再び雨の坂道を歩きはじめていました。向かった先は歩いて10分程の場所にある友人宅でした。私はどこかで"友人宅でも旦那が一度同じ目にあっていた"ことを記憶していたのでしょう。友人宅前に着くと、まだ灯りがついている。深夜に申し訳ないとは思いながらも、私は夫の方に電話をしました。しかし、電話には出ない。仕方がない。今度は奥方の方に電話ではなくLINEでメッセージを送ってみました。『起きてませんでしょうか』と。すると、1分もしないうちに社会問題にもなっている『既読』の文字がメッセージの横に小さく点灯しました。私にはその『既読』の文字が『気の毒に』とも『降臨』とも読めました。......ガチャ。

 

ノーメイキャップの女神の降臨です。

 

「どうしたん」。女神はおっしゃいます。私は言いました。「願わくば、一晩泊めていただけませんでしょうか」。「どうしたん」。女神はそれでも私に尋ねられます。私は恥ずかしながら私の身に起こった出来事を伝えました。「ハッハッハ」。女神はようやく私に笑顔を見せてくれました。「そうながや(訳:そんなんだ)」。女神は高知出身です。

 

そうして、安心した私はすっかり調子に乗っていたのでしょう。「女神も一度同じ過ちを犯したことがあるんですよね」。私はそのようなことを口走ってしまいました。仮にも女神に対して。女神の顔からしずかに笑顔は消えていきました。しまった、と後悔をする私に、ゆっくりとした口調で女神はこう言いました。

 

「1度やないがよ。3回あるが」。

 

 

キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 

 

我が家のセキュリティー、バッチリ。:早川やぁ!次郎

 

※その後談

すっかり寝ていると思った妻は、実は寝ていたのではなく、ゆっくりとお風呂に入っていたそうです。電話の音こそ聞こえなかったものの、ドアの閉まる音や物音など人の気配を感じた妻は、(あ、帰ってきたのだな)と思ったのだとか。ただ、お風呂から上がっても家にいない私は"どこかに隠れている"と思ったらしく、寝ている息子以外には誰もいない家の中で(逆に驚かせてやろう)と、色んな場所で「バアッ!」と私を探していたのだそうです。――なあ、妻よ。わしらは新婚か。