こころ 先生と遺書 夏目漱石 つづき
ーそうしてどんな場合に、善人が悪人に変化するのかと尋ねました。私がただ一口
金と答えた時、あなたは不満な顔をよく記憶しています。
けれども私にはあれが生きた答でした。現に私は興奮していたではありませんか。私は冷ややかな頭で新しい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べるほうが生きていると信じています。血の力で体が動くからです。言葉が空気に波動を伝えるばかりでなく、もっと強い物にもっと強く働きかけることができるからです。
一口でいうと、叔父は私の財産をごまかしたのです。