「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
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私は心のうちで、父と先生とを比較してみた。両方とも世間から見れば、生きているか死んでいるかわからないほどおとなしい男であった。ひとに認められるという点からいえばどっちも零であった。それでいて、この将棋を差したがる父は、たんなる娯楽の相手としても私には物足りなかった。かって遊興のために往来(ゆきき)をしたおぼえのない先生は、歓楽の交際から出る親しみ以上に、いつか私の頭に影響を与えていた。ただ頭というのはあまりに冷ややかすぎるから、私は胸と言い直したい。肉の中に先生の力がくい込んでいると言っても、その時の私には少しも誇張でないように思われた。私は父が本当の父であり、先生はまたいうまでもなく、あかの他人であるという明白な事実を、ことさら目の前に並べてみて、はじめて大きな真理でも発見したかのごとくに驚いた。
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驚いたんですね。自分の父親と先生を比較してみて。
世間から見れば 生きているか死んでいるかわからないほどおとなしい男であった。
しかし じわじわと自分に影響を与えているのが先生だった
大きな真理を発見したかのごとくに驚いた
私もよくわかりませんけど 驚くことにしましょうか