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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき

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 私は奥さんの理解力に感心した。奥さんの態度が旧式の日本の女らしくないところも私の注意に一種の刺激を与えた。それで奥さんはそのころ流行りはじめたいわゆる新しい言葉などはほとんど使わなかった。
 私は女というものに深い交際(つきあい)をした経験のない迂闊な青年であった。
男としての私は、異性に対する本能から、憧憬(あこがれること)の目的物として常に女を夢みていた。けれどもそれはなつかしい春の雲をながめるような心持ちで、ただ漠然と夢みていたにすぎなかった。だから実際の女の前へ出ると、私の感情が突然変わることが時々あった。私は自分の前に現れた女のためにひきつけられる代りに、その場に臨んでかえって変な反発力を感じた。奥さんに対した私にはそんな気がまるで出なかった。ふつうの男女(なんにょ)あいだに横たわる思想の不平均という考えもほとんど起こらなかった。私は奥さんの女であるということを忘れた。私はただ誠実なる先生の批評家および同情家として奥さんをながめた。


「私は女というものに深い交際をした経験のない迂闊な青年であった」
これ こんな表現をできるのは 夏目漱石だからですよきっと。
迂闊がいいですよね
そんな青年なら こんなふうには 考えませんよ
ま いいですね

《 2019.02.05 Tue  _  読書の時間 》