「こころ」夏目漱石 先生と私 つづき
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「そりゃ嘘です」と私が言った。「奥さん自身嘘と知りながらそうおっしゃるんでしょう」
「なぜ」
「私に言わせると、奥さんが好きになったから世間がきらいになるんですもの」
「あなたは学問するかただけあって、なかなかおじょうずね。からっぽな理屈を使いこなすことが。世の中がきらいになったから、私までもきらいになったんだともいわれるじゃありませんか。それとおんなじ理窟で」
「両方ともいわれることはいわれますが、この場合は私のほうが正しいのです」
「議論はいやよ。よく男のかたは議論だけなさるのね。おもしろそうに。空の杯せよくああ飽きずに献酬(酒杯をやりとりすること)ができると思いますね」
奥さんの言葉は少し手ひどかった。しかしその言葉の耳ざわりからいうと、けっして猛烈なものではなかった。自分に頭脳のあることを相手に認めさせて、そこに一種の誇りを見いだすほどに奥さんは現代的でなかった。奥さんはそれよりももっと底の方に沈んだ心を大事にしているらしくみえた。
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このやりとりが すっきりわからないのは 私に読解力が足りないのか
こまったものですね
「もっと底の方に沈んだ心」
どこらあたりまで 沈んでるのかなあ
でもこういうことがあるから 読み進まなきゃね
そうか 小説では 登場人物が 何人かあって それぞれの役を こなさなきゃならないんですね
夏目漱石という作家は そういうことをしていると
それはだれでもわかっているんでしょうけど
私は ふっと 気付かされているところですよ