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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 つづき


 私は不思議に思った。しかし私は先生を研究する気で、その家へ出入りするのではなかった。私はただそのままにしてうちすぎた。今考えるとその時の私の態度は、私の生活のうちでむしろ尊ぶべきものの一つであった。私はまったくそのために先生と人間らしい暖かい交際(つきあい)ができたのだと思う。もし私の好奇心がいくぶんでも先生の心に向かって、研究的に働きかけたなら、二人の間をつなぐ同情の糸は、なんの容赦もなくその時ふつりと切れてしまったろう。若い私はまったく自分の態度を自覚していなかった。それだから尊いのかもしれないが、まちがえて裏へ出たとしたら、どんな結果が二人の仲に落ちて来たろう。私は想像してもぞっとする。先生はそれでなくても、冷たい眼で(まなこで)研究されるのを絶えず恐れていたのである。
 私は月に二度もしくは三度ずつ必ず先生の家へ行くようになった。私の足がだんだん繁くなった時のある日、先生は突然私に向かって聞いた。
 「あなたはなんでそうたびたび私のようなものの家へやって来るのですか」
 「なんでといって、そんな特別な意味はありません。ーしかしおじゃまなんですか」
 「じゃまだとは言いません」
 なるほど迷惑という様子は、先生のどこにも見えなかった。私は先生の交際の範囲のきわめて狭いことを知っていた。先生のもとの同級生などで、そのころ東京にいるものはほとんど二人か三人しかないということも知っていた。先生と同級の学生などには時たま座敷で同座する場合もあったが、彼らのいずれもはみんな私ほど先生に親しみをもっていないように見受けられた。


ここは 読み続けることにしていいですか
この不思議な それも自然なところは 先生にあるのか この人にあるのか
この二人にあるのか などと思いながら
 
《 2018.12.27 Thu  _  読書の時間 》