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こころ 夏目漱石

「こころ」 夏目漱石 つづき


 墓地の区切り目に、大きな銀杏が一本空を隠すように立っていた。その下へ来た時、先生は高い梢を見上げて、「もう少しすると、きれいですよ。この木がすっかり黄葉して(銀杏などのように)、ここいらの地面は金色の落葉で埋まるようになります」と言った。先生は月に一度ずつは必ずこの木の下を通るのであった。
 向こうの方で凸凹の地面をならして新墓地を作っている男が、鍬の手を休めて私たちを見ていた。私たちはそこから左へ切れてすぐ街道へ出た。
 これからどこへ行くという目的(あて)のない私は、ただ先生の歩く方へ歩いて行った。先生はいつもより口数をきかなかった。それでも私はさきほどの窮屈を感じなかったので、
ぶらぶらいっしょに歩いて行った。
 「すぐお宅へお帰りですか」
 「ええべつに寄る所もありませんから」
 二人はまた黙って南の方へ坂をおりた。
 「先生のお宅の墓地はあすこにあるんですか」と私がまた口をききだした。
 「いいえ」
 「どなたのお墓があるんですか。ーご親類のお墓ですか」
 「いいえ」
 先生はこれ以上何も答えなかった。私もその話はそれぎりにして切り上げた。すると
一町ほど歩いたあとで、先生が不意にそこへもどってきた。
 「あすこには私の友だちの墓があるんです」
 「お友だちのお墓に毎月お参りをなさるんですか」
 「そうです」
 先生はその日これ以外を語らなかった。


お墓に 月に一回参る先生 
その日は 黄葉 この文字が 私はいいなあと思ったんですが
先生の友だちだという お墓
少ない先生の言葉と えんりょがちだけれども この人のことば
あれ この人って名前がありましたっけ?

向こうの方で凸凹の地面をならして新墓地を作っている男が、鍬の手を休めて私たちを見ていた。
《 2018.12.24 Mon  _  読書の時間 》