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こころ 夏目漱石

「こころ」夏目漱石 つづき


 私がその掛茶屋で先生を見た時は、先生がちょうど着物を脱いでこれから海へはいろうとするところであった。私はその反対にぬれたからだを風に吹かして水から上がってきた。二人の間には目をさえぎる幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のないかぎり、私はついに先生を見のがしたかもしれなかった。それほど浜辺が混雑し、それほど私の頭が放漫であったにもかかわらず、私がすぐ先生を見つけ出したのは、先生が一人の西洋人をつれていたからである。
 その西洋人のすぐれて白い皮膚の色が、掛茶屋へはいるやいなや、すぐ私の注意をひいた。純粋の日本の浴衣を着ていた彼は、それを床几(しょうぎ こしかけ)の上にすぽりとほうり出したまま、腕組みをして海の方を向いて立っていた。彼は我々のはく猿股一つのほか何物も肌に着けていなかった。私にはそれが第一不思議だった。私はその二日まえに由比が浜まで行って、砂の上にしゃがみながら、長いあいだ西洋人の海へはいる様子をながめていた。私の尻をおろした所は少し小高い丘の上で、すぐわきがホテルの裏口になっていたので、私のじっとしているあいだに、だいぶ多くの男が塩を浴びに出てきたが、いずれも胴と腕と股は出していなかった。女はことさら肉を隠しがちであった。たいていは頭にゴム製の頭巾をかぶって、海老茶や紺や藍の色を波間に浮かしていた。そういうありさまを目撃したばかりの私の目には、猿股一つですましてみんなの前に立っているこの西洋人がいかにも珍しく見えた。
 彼はやがて自分のかたわらを顧みて、そこにこごんでいる日本人に、一言二言何か言った。その日本人は砂の上に落ちた手拭を拾い上げているところであったが、それを取り上げるやいなや、すぐ頭を包んで、海の方へ歩きだした。その人がすなわち先生であった。


由比が浜の 猿股いっちょうの西洋人ですか。面白いですねえ。
だいたい 今の時代 猿股というものがあるのかと思われるかも知れませんが
実は今でもあるのです。ま そういうことはどうでもよいのですが 先生は タオルを取り上げると サッと頭を包んで これはいかにも日本人という感じで いいですねえ。
ここでも まだ その様子をおっているだけの 私です
タオルをどういう風にするとどういうかたちになるのかな のりぞー 
《 2018.12.12 Wed  _  読書の時間 》