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大きい荷物 吉行淳之介

「大きい荷物」吉行淳之介 三おわり


  .....こいうことを、メモに書き記していた。もちろん、ずっと簡略に、たとえば『マニキュア、醋酸アミール、客船』といった具合である。
 そういう作業をつづけていると、タクシー無線の声が聞こえてきた。しかし、その内容までは、メモに気を取られて頭に入ってこない。ただ、漠然と「タクシーの無線室の声とは違うなあ」と感じながら、手帖のほうにかまけていた。
 「お客さん、田園調布のあたりで 事件がありましたね」
 運転手の声がきこえた。混雑する筈の時刻に、車がスムーズに目的地に近づいているので、上機嫌になった運転手は、客に話しかけたくなっているらしい。一方、客は手帖になにやら書きつけているので遠慮していたが、我慢ならなくなったようだ。
「え、ああそうか、今の声は警察無線か。中身は聞いていなかったけれど、事件の連絡ですか」
「そうですよ」
「今でも大きい荷物とか、小さい荷物とか言ってますか」
「そうです。大きい荷物のほうでした。明日の朝刊には出るでしょう」
「どうかなあ。今の世の中は、大きい荷物だらけだからな」
 警察が、無線で各タクシーに犯人逮捕の協力を求めている。暗号として「荷物の忘れ物」と言い、忘れ主の性別・推定年齢・体格・服装などを付け加える。「大きい荷物」は、凶悪犯を意味している。
「でもお客さん、暗号のことをよく知っていましたね」
「十年くらい前だったかな、タクシーの運転手さんにたずねて、教えてもらった。内容は辻褄が合っているが、声が違う。あれは、タクシーの配車係の声ではないよ」
「ほう」
「不思議なもんだな、声というのは。どうしても、職業によって、はっきり違ってしまう、例外はあるけど」
 運転手にとってはそんなことはどうでもいいのだろう、今はただ多弁になりたい筈だ。しかし、話の進め方に戸惑ったようだ。
 私は、またメモを開いて、
『ショート・ホープを間違ってさかさまに咥え(くわえ)、フィルターのほうに火をつけて吸い込むと、ヤキイモそっくりのにおいがする』
 と、記した。


「大きい荷物」ここでやっと出てきましたか
警察無線が各タクシーに 凶悪犯だと「大きい荷物」と暗号の連絡が入るんですね
におい 声 それぞれに 特徴がある ショート・ホープを間違ってさかさまに火をつけて吸い込むとやきいもそっくり
いろいろなことを メモしていると 文才のある人は それだけでも 一作ものにできる
いやあ おみごと
私は この作家の文を ただ いっしょにそばにいて話を聞いているような気分で
読みました
それがすごいちゅうねん のりぞー

話は変わりますが 今「徹子の部屋」という番組では 今年亡くなった人の(俳優さんたち)追悼番組なんですが 感心したことがあります
「ねえ 俳優さんたちが 話している時の表情 とてもいいよねえ。わたしたちだと あんなに なっているかなあ あんな感じに」私は夫に そう言いました
自分は前から そういうことを じっと関心を持って眺めていたのかもしれませんね
校長先生をしていた父が 生徒たちの記念撮影のときなど 間違いなくにっこりと いい笑顔なんです。 うちに帰ると そんなじゃなくてもね。いっつもムッスリしている息子が 写真嫌いだとか言いながら やはりにっこり笑っているのが 不思議でしたね。
そういう私も 渋い顔をしているのに(どんな顔なんだ?)笑ってる!
俳優さんたちは カメラの前で どんな顔をしているのか 案外わかっていて 意識しているのかも 


《 2018.12.05 Wed  _  読書の時間 》