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セザンヌの手紙

セザンヌの手紙 ジョン・リウォルド編

青年期 つづき

1859年 更にまた同年12月29日附の手紙には、「怖ろしい物語」と題する詩が添えられてある。少々長いが、面白い詩だと思うので全文を掲げておく。

 それは夜、暗い夜、
 空には一点の星もない夜だった。
 夜はすっかり更けていた。
 暗い夜は更けていた。
 こんな時なのだ、
 この不吉な出来ごとの起こったのは。
 途方もない、前代未聞の物語、
 誰もほんとにしそうもない物語。

 悪魔が一躍演じていたのは勿論だ。
 まこととは思えぬ話しながら、
 僕は嘘は云わぬ
 たしかに僕の見たほんとうの出来事。
 まあ聞きたまえ、それは真夜中、
 人々は灯りを消して
 寝しずまった頃、
 なま暖かい夜だった、夏の夜。
 雷雨の前触れの
 屍衣のような雲が
 空一面にひろがっていた。
 この経帷子を、時たま
 月の光がつきやぶり、
 僕の独りさまよう道を
 ぴかりと照らしたが、
 やがて、ぽつりぽつりと
 雨のしずくが落ちてきた。
 怖ろしい出来ごとの前兆の
 激しい風が、南から北へ
 唸りをあげて吹き起こる。
 アフリカでは町々を砂の波で埋めてしまう
 この凄まじい熱風も、
 天に小枝を差しのべて救いを求める樹々には、
 さすがに手荒な真似もせぬ。
 夜のしじまを破って
 嵐が吠え出したのだ。
 森に木魂する風の叫びが
 僕を震え上がらせた。
 怖ろしい唸りをあげて稲妻が
 夜のとばりをつんざいた時、
 その蒼白い光條にありありと照らし出された
 妖精、地霊を
 怖ろしや、僕は見たのだ。
 彼らはざわめく樹々の上を、
 薄笑いを浮かべて飛び舞うていた。
 悪魔がその音頭をとっているのを
 僕は見て、
 恐怖に身も凍る思いがした。
 悪魔の爛々たる眼は
 ひときわ赤く燃え、
 時折そこから火花が迸った。
 そして、彼のまわりで
 様々の妖精が輪舞を舞っていた。

 僕は打ち倒れた。體は凍え
 生きている心地もなく
 腰を抜かして震えていた。
 躰中に冷や汗がにじみ、
 起き上がり逃げ出そうと努めるが
 力空しく、ふと目をあげると、
 悪魔の一団は奇怪な踊りを舞いながら
 近づいて来るではないか。
 怖ろしい妖怪とむごたらしい吸血鬼が
 とんぼ返りを打ちながら
 僕のほうへ近づいてくるのだ。
 彼らは天に向かって 
 何やら薄気味悪い合図をする。
 「土よ、我を埋めよ!
 石よ、我が身を砕け!」
 こう僕は叫ぼうとした、
 「おお死人の住みかよ、
 生ける我を迎入れよ!」
 しかし、地獄の一党は
 いよいよ身近ににじり寄ってきた。
 墓堀り鬼や妖怪どもは
 獲物を前に、貧欲な目を光らせ、
 舌なめずり、歯を軋らせていた。
 その時だ、嬉しや
 遠くのほうから蹄の音が
 突然聞こえてきたのだ。
 嘶き(いななき)上げて疾走して来る馬馬の
 蹄の音が!
 はじめは微かに聞こえてい疾()の音は次第に近づく。
 掛け声もろとも鞭を鳴らす
 威勢のいい馭者の(ぎょしゃ)御する四頭馬車は、
 息せき切って森を抜けてやって来る。
 その音におびえて、魔物の群れは
 寒風にいたたまれぬ裸女のように
 忽ち逃げ去った。
 僕は安堵の胸を撫ぜおろす。
 半死の僕は、馭者を呼び止める。
 堂々たる馬車の行列は
 直ちに停まり、やがて無蓋馬車(むがい馬車 屋根のない馬車)の中から
 優しい艶やかな声が洩れて(もれて)
 「お乗り!」と云った。
 早速僕は、ひらりと跳び乗った。
 戸が閉まる。見れば、
 僕の前にいるのは一人の女だ。
 ああ僕は、こんな美しい女はついぞ見たことはない。
 ブロンドの髪、輝く眼差し、
 それは一瞬にして僕の心を溶かした。
 僕は、彼女の愛らしい足もとに身を投げた、
 その豊かな膝の上に。
 そして次に、
 動悸打つ彼女の胸に顔をうづめて
 接吻したのだ。
 ところが如何に、
 死人の冷たさが僕をぞっとさせた。
 僕の抱いたあの薔薇色の女は、
 忽ち変じて、骨もあらわな
 蒼ざめた死骸と課していた。
 眼は哀へ窪み、
 僕を震え上がらせる形相の凄まじさ!
 驚いた僕は
 ()く気がつく、 
 これは葬式の車だったと。
 行き先を知らぬまま
 僕はこれに乗せられて行く。
 だが、僕はやがて
 我と我が身を殺すだろう。

***

いやぁ!凄まじいですね。
セザンヌのこの詩にとりかかったものの えらいこっちゃと
降りるに降りられぬ そんなでした。
セザンヌは ただものじゃないですね。心理学の先生 どんなもんでっしゃろ?
ある映画にこんなしーんがありました たしか 冒頭のシーン「野いちご」や。
この私が 思い出すなんて びっくりぽんですわ。

で このようなセザンヌの詩は 一体何処で見つかったんでしょう。日記が残されていたのか いやこれはエミール・ゾラにあてて書いているんですよね。じゃぁゾラが保管していたってこと?

私がいくら怖れおののくことがあっても こんなにくわしく具体的におののくかなぁ。

のちに セザンヌは人に それがたとえ息子であっても触られることを嫌がったという話も残っているようですが。関係はあるやなしや?

もうセザンヌの描くヌードはへたやわ とえらそうな事を云った私ですが
それどころじゃないです。 疲れたー。
でも セザンヌの青年期 これは探偵になったつもりで いざ
 
 


《 2016.12.17 Sat  _  1ぺーじ 》