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現住所は空の下

現住所は空の下 高木護著 未来社 1989の続きです。

一期一会 
「光り男」

「そこでござったか」
「よびとめもうして、すまんがの」
 小男はカヤをばさばさとならせながら、原っぱから出てきた。春になったばかりで、まだ
寒いというのに褌に(ふんどし)シャツ一枚姿だった。
「ここを通りかかりもうした貴公に、ちょっくら、見てもらいたいことが、ありもうしての」
 小男はわたしに合掌した。わたしもお返しに、小男に片手拝みした。
「拙者はこれでもな、坊主での」
 小男はオホンというように胸を張った。
「坊さんでござるか、これはこれは」
 わたしはもういっぺん片手拝みした。
「あのな、拙者が光って見えもうさんかの」
「光ってとは、なんでござるか」
「よう見て下され。拙者から、ぴかぴかと後光が射しもうさんかの」
「後光が、でござるか」
 わたしは後光という意味がすぐにはわからなかったので、小男の面を見た。山風がぴゅっと吹いてくるたびに、小男は体をすくめた。春風といっても、ひんやりとしていた。後光というのは仏様の体から射してくる光であることに、わたしは気づいたので、
「後光でござったか、光りよるでござる」
 嘘をついた。
「夕べからの、拙者の体が熱くなりもうしてな、ぴかぴかと光りだしたのじゃ」
 小男がいうのにはきのう、原っぱのカヤの中にももぐり込んで寝ていたら、急に体じゅうが熱くなり、かっかとしてきて、体も辺りの原っぱも光り出したというのであった。光りは金色に見えたというのであった。
 小男は「夕べから」といったが、夕べといえば、夕焼けがとても奇麗だった。空が薄紅色に焼けて、黄金色にも輝いて見えた。
「あの夕焼けのせいでござろう」
という代わりに、小男を、さも後光が射しているかのように、私は片手拝みをした。

***

「あのな、拙者が光って見えもうさんかの」
カヤのなかで寝ていたら 夕べから体があつくなりもうしてな、ぴかぴかと光りだしたのじゃ よう見て下され。拙者からぴかぴかと後光が射しもうさんかの

薄虹色に焼けて、黄金色にも輝いて見えた それを体じゅうに受けたこの小男はとても幸せなまるで神さんに恵みを受けたようなほこらしい気分だったに違いないですよね。それはうそとかほんとよりこの人は自然の一部分になってるやん とわたしはうらやましいけど経験した事ないなあ これからもそういうことはないやろなあ と思ったことでした。

おかしいことに後光って他人に見てもらわないとわからないものなんですね。
高木さんはこういう人には 優しい。
「光り男」はこれでおしまいです。

さいならさいなら


《 2016.03.13 Sun  _  1ぺーじ 》