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スタインバーグ

『コレクション瀧口修造』ヨーロッパ紀行1958 みすず書房

スタインバーグの『新しい世界』

 ソール・スタインバーグは日本流にいえば漫画家であるが、マンガの歴史と分化がこんなに烈しく変転し、どんなものも呑みつくしかねない今日では、そう古典的な名前では意をつくせないかも知れぬ。勿論、彼は今日のイラストレーターという領分をもすっぽり身につけているのだが。ところでスタインバーグの独創は、しばしば漫画の漫画家、いやとりわけ絵画の漫画家でさえあるところである。彼は絵画というものから、絵の具の粘りや厚みなどを、人間の脂肪と一緒に、シャボン玉のように吹き払ってしまったところで、絵を走らせる。それは文字通り、白紙(タブラ・ラサ)の上のデッサン。そこでは人間は、動物はおろか数字とさえ同質となり、あらゆる時間空間錯誤も可能となる。それこそ「絵そら事」の百科事典の観を呈している。
 「新しい世界」というのは、たぶん物理学やあらゆる数式に管理される情報記号の幻影過多症に陥りつつある現代世界を暗示しているのだろうか。たしかに記号の世界は人間にある種の幻想を植えつけ、あわよくば桃色の未来像にありつけると想わせがちだ。「新しい世界」といえば身近な日常の言葉なのだが、実は誰にも信じられない世界の事ではないか。あるいは冷蔵庫に入っているユートピアか。未来像とは、自分の背中に、気付かれないで蠅のようにへばりついている記号の群れであるのかも知れない。
 どんな巨大な疑問符も人間は平均台の端にのせて平気で生きられる慣性を身につけたようだ。あらゆる未来の洞察と合理性を主張してせめぎ合う都市計画も、この「白紙」の上では逆説の積み木遊びのように見えてくるだろう。むしろスタインバークの世界に近づいてくるのは現実なのかと思う。ーー
突飛のようだが、『新しい世界』のページをめくっていると、私はふと、あの宇宙に飛びだすための秒読みというものを連想した。無限大の数で埋まっているはずの大宇宙へ出発するというのにケチな数からかぞえてゼロになった瞬間、どえらい爆発音とともに飛びだすあの奇妙な可笑しさは、どこやらスタインバーグのものではなかろうか。
 『新しい世界』の扉にある、有名なデカルトの「われ思う、ゆえにわれ在り」をもじった「われ思う、ゆえにデカルト在り」は、スタインバーグの図解論理学の序論であろう。それはまた問わず語りに「われ描く、ゆえにわれ在り」とでもいいたげに、すべての線は渦巻のように、逆に描くおのれの手に戻ってくるだろう。そうだ、この世のどこかの、どんな怖ろしい爆発も、一人の人間や動物や小さな花との間に見えない均衡と符合が存在しているはずだ。その迷宮のような路がスタインバーグの細い一本のペン先でまる見えになると、人はユーモアを感じる。

***

ピカソやセザンヌを「新しい世界」とやっとしているのはこの私です。
それがスタインバーグという「絵具の粘りや厚みなどを、人間の脂肪と一緒に、しゃぼん玉のように吹き払ってしまったところで、絵を走らせウ。それは文字通り、白紙の上のデッサン。そこでは人間は、動物はおろか数字とさへえ同質となり、あらゆる時間空間錯誤も可能となる。それこそ「絵そら事」の百科事典の観を呈している」ー

前に「ピカソを通り抜けずには 現代絵画には行けない」 なんて事書いてありませんでしたか?
「絵具の粘りや厚みなどを、しゃぼん玉のように吹き払ってしまって そう 絵は油絵具が厚く塗ってある事」それが絵画のことではなかったんですか 最低限。 それをしなかったらイラストやら漫画というふうに区別されていたんですよね。デッサンとちょっとランクを上げてるのはありましたけど。この瀧口修造さんはこの本を1991年に出版しています。スタインバーグは新しかったんや。
もう漫画はほらもうあの人 大手をふって歩いてる。
むらかみたかしさんだ!出てきてよかった。

「新しい世界」は「実は誰にも信じられない世界のことではないのか」「あるいは冷蔵庫に入っているユートピアか」「未来像とは、自分の背中に、気付かれないで蠅のようにへばりついている記号の群れであるかも知れない」
瀧口さんは 本当に新鮮なことばを私に見せてくれる。
私がせっせと読んでいるセピア色に変色した昭和18年の「印象派の時代」、「ピカソとその周辺」は1964年。
「新しい世界」は「誰にも信じられない世界」とはここからでもしっかり見えて来る。
たしかピカソは「もう新しいことはこれでおしまい もう生まれてこないぞ」と叫んでましたよね。
ドッカーン!びっくりぽんや!
あの ここの話はそういう話じゃないの?ちがう?ま いいか
なんども読んでみましたよ。「よくわからないゆえに われ在り」ちがうか

さいならさいなら
《 2016.03.06 Sun  _  1ぺーじ 》