梨の木
梨の木が ありました
この家の おばさんが そこに
梨を ぽんとほったからです
おばさんは そんなことを
おぼえてはいません
ところが 多分 何年かして
そこには青年の木があったはずですが
それも忘れました
何年かして 梨の実がなってると
おばさんは大騒ぎしました
おばさんは それから
毎年 その木のそばに行くようになりました
実もスーパーで売ってるような大きな実になりました
ところがおばさんはその木が
あんまりすくすくのびて たくさん実をならすので
なんだか 心配になってくるのです
この梨はただものではないぞ
やがてこの根はじわじわとのびて
家を ぎゅっとつかんで
水道管もばりっとこわして
大変な乱暴者になるかも知れない
そうおばさんは思うと おそろしくなって
違うところに 植え替えることにしました
男たちをよんできて スコップで
えんやこらさと 掘り起こそうとするのですが
それはなかなかでした
それでも やっとこさ 驚くほど長い根っこ
とともに どすんと 梨の木は ひっこぬかれました
それを 男たちの気の変わらないうちに
あらかじめきめていたところへ 植え替えました
おばさんも男たちもそれでほっとして
春が来ました
その梨の花はきれいに咲きました
ところがその後 だんだん元気がなくなり
かれてしまったのです
「そうかこの木は じぶんの一生を 花を咲かせて
おしまいにしょうと きめていたのだな」
おばさんは心で思って その覚悟に 思わず泣いてしまいました
おばさんは そのかれきを一年はのこしておきました
2年かもしれません
おばさんは忘れるのです
台風が来ても もしかして息を吹き返すかも知れない
とお思い直したりしながら
おばさんはそれいらいか これいらいか
木でも植物でも 生きている
話も通じると思うようになりました
朝は 植物にそっとさわってみたり
おはようと呼びかけてみたりします
ちょうやことりがやってくると
にぎやかだこと と 感じます
草がはえてぼうぼうになっても
夜虫の声が 草の中からしてくると
チョットは見栄えが悪くても
虫達には ふあふあの ここちいい
ねどこだと 恋のできる天国のようなところだと
思うことにしています
ま そういうわけで この写真の木は
その梨の木の立ち姿なのです