2016.08.02父の画集

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こちらは、父、成瀬政博の画集。
週刊新潮の表紙絵を20年近く担当しています。
20年分、ではないのですが父が気に入った表紙絵をまとめたものになります。週刊誌なので毎月4枚。1枚1枚キャンバスに描いた絵です。
絵を描いている方はわかるかと思いますが、キャンバスに絵を描くときは下に何層かに下地をつくります。何枚か過去の絵が隠れているということもあります。そうすることで、絵に深みがでるんですね。層があるかないかでは全然ちがいます。
わたしが高校生の頃に、父に週刊新潮の表紙絵の仕事がやってきました。
子供時代の父の記憶というと、最初は大阪の裁判所で働く公務員。その後、脱サラ(脱公務員?)して最初は小説家になろうとしていたんだか。どうだったんだか。

でも物心ついてからの父というと、絵を描く人で画家でした。
学校の体操着のゼッケンは、父に描いてもらうとなんだかちょっとセンスのいい字だったりしたので母ではなく、父に頼むことが多かったように思います。
お金はないけど、父は毎日家にいる。というような感じで子供の頃よく父は、私たち兄弟を連れて旅行につれていってくれたり、テニスをしたり、プールに行ったりしました。そしてときどきふらりとインドやらスペインやらイタリアやら貧乏旅行へ行ったりして海外の変わったお土産をたくさん持って帰ってきました。
父や母の個展にもよく一緒に行きました。子供にとっては静かにしていないといけないので個展へ行くのはいいけれどすぐに飽きて早く終わらないかなあ。と思うようなこともありました。

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これは父が描いた絵本。偕成社からでていますがすでに絶版になっています。
わたしは5人兄弟なのですが、兄、姉、わたしを主人公にして絵本を作っています。下2人の弟は父の絵本の時代とはちょっとずれちゃったんですね。わたしはギリギリセーフ。
「おさんぽおさんぽ」と「ねむいよねむいよ」がわたしが主人公。名前もそのまま、「あやちゃんねむいよねむいよ」などと使われています。「ねむいよねむいよ」はもう本自体は残っていなくてダミーとしてつくったものだけがあります。
今となれば宝物ですね〜。ハヤオにも、赤ちゃんの頃よく読みました。

記憶している限りでは、父はNHKの生活笑百科でタイトル文字をデザインしたり、(父が出た回もあったらしい)どこかの銀行のイラストを描いたり、産経新聞でイラストの連載をしたり、今でいうフリーのイラストレーターというような感じで仕事をしていました。
でも5人の子供がおり、母は専業主婦(兼あまり稼がないアーティスト)で、日々の暮らしはたいへんでした。
そんな中舞い降りてきた週刊新潮の表紙絵の仕事は、家族中でバンザーイ!とよろこんだ仕事だったんですね〜。

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でも、なかなか最初の数年は毎月4枚の絵のデザインを考えるのがとても苦労していたなあ。というのを記憶しています。鬱になっちゃうんじゃないか。と追い詰められていた時期もありました。
ぽんぽんイメージがでてこない、でてきても編集部にNGをつきつめられる、色あいを毎号明るく、変化をつけてほしい、季節のモチーフをいれてほしい、表紙タイトルが入る部分は1色もしくはグラデーションにしてほしい、など、様々な注文がありました。
当時実家に住んでいたわたしも、なんかいいイメージがないかなあ。と父と一緒にアイデア出しを考えたりすることもありました。
またわたしがひとり暮らし時代には、わたしも初めての週刊誌の表紙をデザインする仕事をいただいたことがあって、アイデアがでてこない苦悩を心からわかってくれたのは父でした。よく電話で愚痴を言っていたのを思い出します。

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これはわたしが表紙のバッグデザインをしていた関西版の求人誌「salida」
ベネッセのしまじろうのちゃれんじぽけっとの表紙デザインも担当していたことがありました。(画像みつからず・・)

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今回、同時期出版になった父の画集(左)と、詩集(右)。
父らしく、表紙の絵は子供の(わたしの姉と弟)描いた絵を採用しています。
わたしみたいな仕事をしていると、どうやったら売れるかということを考えるのが最優先になってしまうので、表紙は中身がわかりやすいもの、という意味では、この表紙だったら中がわからないんじゃないの・・・と思うところですが、父は「そんな本屋さんでこんな画集や詩集が売れる時代ちゃうしなあ。個展とかで売るからいいねん」とさらりと。
本を作るのが趣味みたいな人なので、自費出版した本は数知れず。

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うちにある父の絵。
わたしが家を出てひとり暮らしをするときにプレゼントしてくれたものです。
実家に帰ればたくさん父の絵があって、「ちょうだい」と言ったら多分「ええよ〜すきなん持っていき〜」と言われそうですが、家族といえども、父の作品。なんとなく気軽には言えません。
が、だんなはんは結構かんたんに「これいいなあ〜ほしいなあ〜」と言って、こないだの帰省時にもらって帰ってきていました。「くれたよ〜やった〜〜〜!」と。いいのかよ。

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だんなはんがもらってきた絵。
こんな感じの絵も描きます。父はいろんなタッチの絵を試してみたいんだそうです。過去にも銅版画をやったりしていたこともあります。銅版画のもなかなかおしゃれでした。

そんな父の半生は、アトリエナルセの公式フェイスブックでもだんなはんが更新していました。なかなか面白く、好評だったのでだんなはんのブログ「日記、猫か夫か。」でもまた転載しようと思っています。
父の画集は、全国の書店、amazonなどで販売中です。詩集は、直接注文になります。(こちらでもお受けしています)
画集「成瀬政博 表紙の絵」新潮社刊は2800円、詩集「穏やかな一個」ほのほ刊は1200円です。